東日本大震災の被害概要
東北地理学会東日本大震災報告集
2011.04.09, 更新2011.08.29
高野 岳彦(東北学院大学 教授)
Email:tktk(a)izcc.tohoku-gakuin.ac.jp
東日本大震災
2011年3月11日午後2時46分,本州の北東部の東方海域でM9.0の巨大地震が発生し,広い範囲が震度6以上の強震に襲われ,その後,沿岸部を大津波が繰り返し襲った。この苛烈な自然現象により,東日本の各地で地震によるライフラインや輸送ルートの社会基盤が被害を受けたほか,大津波に襲われた約500kmにわたる沿岸の各地では集落や市街地が丸ごと流失するという衝撃的な被害が発生した。それだけでなく,東京の約200km北に位置する福島第一原発では,大津波によって電気系統を破壊されてすべての冷却機能を失い,建屋が破壊して放射性物質が漏出し,20km圏内の全住民と20~30km圏の大半の住民が避難するという深刻な事態をもたらしている。死者と行方不明者は20,202人,全・半壊家屋は271,805戸(いずれも8.27現在),最大約20万人(3.26現在)に達した避難者数は,8.25現在でも78,852を数え,一方で着工された仮設住宅は87,285戸分にのぼっている。
ここでは,この地震と大津波による被害状況に加えて,甚大な被害の中心地域である東日本の太平洋沿岸地域がそもそもどんな地域なのか(だったのか)について世界の人々に知ってもらうため,その概要を紹介したい。
被災地域の範囲
はじめに被災地域の位置と範囲を確認する。Fig.1が震度階の分布,Fig.2が津波警報の発令地域である(気象庁webより)。日本の震度階では,建造物やインフラへの被害が発生するのは5強(5+)か6(弱)以上である。今回の地震では 6以上の震度が関東と東北の広い範囲で観測され,その範囲が主な被害地域と重なる。また3m以上の「大津波」警報が発令された地域は,東日本の太平洋岸全域に及び(Fig.2),このうち東北と関東の沿岸には,高さ7~18m,局所的には約30mに達する大津波が襲った(津波の高さはニュース報道による)。
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Fig.1 JMA Scale (Shindo)
Source: Japan Meteorological Agency
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Fig 2. Alerted tsunami height
Source: Japan Meteorological Agency
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この地震と大津波による被害はあまりに巨大かつ広範囲であるためになお未確定であるが,警察庁が4月1日に発表したデータを分布図にするとFig.3~5のようになる。これらに示されたとおり,被害地域の中心は「東北地方」の太平洋側に位置する岩手,宮城,福島の3県である。
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Fig.3 Casualties
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Fig.4 Structural damage
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Fig.5 Evacuee
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Source: National Police Agency
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Fig.6 Death by municipality
Sources: List of Identity Confirmed Bodies, Iwate, Miyagi, Fukushima Prefectures
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この3県について,各県の警察本部に公表されている死亡者名簿に基づき,より小さい地域単位である「市町村」別に分布図にしたのがFig.6である。図に示されたように,死亡者の大部分は沿岸部に集中している。これは,今回の震災の被害が,地震そのものよりも,その後の大津波によってひきおこされた被害が甚大であったことを示す。
また,大津波によって深刻な事態に直面している福島第一原発の30km圏では,放射能の危険による避難命令や屋外退避指示によって他県への避難が発生している(Fig.5)。さらには遺体の収容と死亡者の確認が進まず,この地域の死亡者数は空白に残されている(Fig.6)。このように,東日本の太平洋沿岸地域は、大地震と大津波による被害に加えて原発事故にも直面しており、多重災害の代表的な事例となりえよう。
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