東北地理学会研究奨励賞(長谷川賞)

 「東北地理学会研究奨励賞(長谷川賞)」は、2007年10月20日に長谷川典夫先生喜寿記念事業実行委員会より、若手地理学研究者の育成を目的として東北地理学会へ託された寄付金をもとに創設した賞です.

 受賞対象者は,本学会会員,または本学会会員を含む団体とし,年令35歳以下もしくは入会後5年以内で,地理学研究において顕著な成果を挙げた者とします。

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これまでの表彰者

第14回受賞者

■受賞者:三條 竜平 会員
選考対象とする業績:「北海道屈斜路カルデラにおける後カルデラ期の地形面形成」 季刊地理学72巻第1号所収

業績の概要と評価:本研究は、後カルデラ期の地形面形成の解明を目的に、北海道屈斜路湖周辺で繰り返し発生した湖水面の変化と噴火活動を結びつけて論じた研究であり、同様の研究は我が国には少ないために貴重な研究例である。筆者らの指摘しているとおり、屈斜路湖を含む屈斜路カルデラは我が国で有数の地熱地帯であり、近傍の摩周カルデラと共に、活発な火山活動がある。そのために、火山地質学や地球物理学の観点から多数の研究が実施されてきたが、地形学の観点からは研究が少なかった。特に、屈斜路湖の周辺に存在する段丘面は湖水面のダイナミックな変動を示している貴重例にも関わらず。これまでに十分な研究が実施されていなかった。この貴重例の存在に筆者らは着眼し地形変化とその要因を分析したことには、他分野に普及する大きな価値がある。筆者らは、丁寧な地形調査、テフラの調査を行い、屈斜路湖周辺に特徴的に存在する段丘面と噴火活動を結びつけた。また屈斜路湖東岸に存在する断層の変位量を推定し、その断層運動が活発であることを示した。屈斜路カルデラには複数の火口が集中しており、特に、本研究で活動度の推定を行った活断層の近傍のアトサヌプリ火口下に大量のマグマが潜在する可能性が地球物理分野から指摘されている。従って、この断層の活動度は火山に関係する緒分野でも注目されるであろう。以上の理由により、三條竜平会員が受賞にふさわしいと判断した。

■受賞者:斉藤 美沙季 会員
選考対象とする業績:「経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の受入れにみられる大都市集中傾向―東京大都市圏における動向とその背景―」 季刊地理学72巻第3号所収

業績の概要と評価:本研究は、EPA外国人看護師候補者の受け入れが急増する東京圏を対象にして、その背景にある専門職育成にかかわる地域条件を解明しようとした。既存研究では、日本と送り出し国の資格認定や看護観の違いといった国家スケールでの制度、文化に着目したものや、看護師候補者のライフコースや日本での生活実態などの個人スケールでの生き方に着目したものなどがみられる。その中にあって、本研究は、地理的視点、すなわち日本国内におけるEPA看護師候補者の偏在に注目する。本稿では、そのような日本国内の地域構造といった巨視的な事象を候補者の日本での生活の有り様や施設側の支援策といった微視的な活動の延長線上に置くことで、捉えようとしている。そこで、受入病院9院と3ケ国から来日した看護師候補者21人に対する聞き取り調査を行い、系列病院の集中、国際化を指向する自治体の学習支援、外国人の生活を支える多様な施設や交通手段の存在という大都市の有する外部経済が看護師候補者の偏在を促す要因となっていることを見出した。さらにこの調査から日本の医療・福祉現場を支える多様な外国人の参入ルートや受け入れ主体による地域差に関する研究課題を指摘した。これらはまさに外国人労働者の東京集中の背景を明らかにしたものとしても評価でき、容易ならざる現場に立ち入って調査を行った著者の力量ともあわせて、斉藤美沙季会員が受賞にふさわしいと判断した。

第13回受賞者

■受賞者:本多 広樹 会員
選考対象とする業績:「保育および教育機能からみた中山間地域の存続基盤−伊那市新山地区を事例として−」 季刊地理学71巻第4号所収

業績の概要と評価:本論文は、中山間地域である伊那市新山地区を対象地域として、様々な主体の活動とその関係性が、地域の保育・教育機能を維持させ、それが地域の存続基盤となったことを示している。人口減少地域の機能維持における学校の重要性は、これまでしばしば指摘されてきたが、本論文は保育園の閉園の後、その再開、さらには移住者受け入れ促進による地域活性化を経験するに至った希少な事例を取り上げている点で貴重である。著者は、対象地域における保育および教育機能の変遷の背景について、すでに解散した住民組織も含めて、関係主体の活動内容や相互の関係性に着目して、丁寧に検討している。そして調査結果を基に、中でも保育園の閉園時期も含めた子育て世代同士のつながりの維持が、保育園の閉園という地域社会の存続を脅かす危機の克服と、移住者受入という地域社会の維持活動において重要な役割を果たしてきたことを明らかにした。本論文で示された中山間地域の維持機構は、日本各地の中山間地域の機能維持を考える上で、示唆に富むものであり、日本の現代的課題の解決に寄与することができる優れた研究報告であるといえる。今後のさらなる研究の発展が期待される。本論文著者の問題意識や、それに対しての意欲的な取り組みは高く評価される。以上の理由により、本多広樹会員が受賞にふさわしいと判断した。

第12回受賞者

■受賞者:澁木 智之 会員
選考対象とする業績:「全国農地ナビのデータ取得と圃場分散の状況分析への適用」 季刊地理学70巻第2号所収

業績の概要と評価:本研究では、2015年4月より稼動を開始した農地情報公開システム「全国農地ナビ」を有効活用し、WEBスクレイピングという手法により、新潟県1区1市1村と広島県8区1市の全農地33万5,780筆のデータを一筆ごとに取得し、そのデータを緯度経度の付いたポイントデータとしてArcGISに取り込み、圃場分散の状況分析を試みている。圃場分散の状況把握に際して、既存の指標に加え、平均的な圃場分散および圃場の隣接性に関する新たな指標を2つ提示し、これまでは経営体単位や集落単位でしか把握できていなかった圃場分散について、市町村単位以上の空間スケールで分析することに成功した。ビッグデータ活用の手法を提示することにより、圃場分散に関連した農業地理学研究に新たな可能性を示した研究として高く評価できる。


■受賞者:湯澤 樹 会員
選考対象とする業績:「飯縄山西麓における中期更新世以降のテフラ層序」 季刊地理学70巻第4号所収

業績の概要と評価:本論文では、従来、テフラ層序が十分には明らかにされていなかった長野県北部の飯縄山西麓において、詳細な現地調査とEPMA主成分化学組成分析により、中期更新世以降のテフラの分布・記載岩石学的性質を明らかにし、模式層序を確立している。その結果、広域テフラも含めた9層の示標テフラ層が認定されるとともに、中社スコリア層(CS)と新称したテフラが飯綱山起源であること、その噴出年代は45-51kaであることが明らかとなった。本研究の成果は、妙高火山群の火山活動史や周辺域の地形発達史、とくに海洋酸素同位体ステージ6(MIS 6)以前に遡る編年に大きく寄与することが期待される。豊富なデータと精緻な分析に裏付けられた議論には説得力があり、優れた研究論文であると評価できる。

第11回受賞者


該当者なし

第10回受賞者

■受賞者:今野 明咲香 会員
選考対象とする業績:「秋田駒ヶ岳北方の偽高山帯におけるオオシラビソ小林分の立地環境」 季刊地理学68巻第3号所収

業績の概要と評価:本来亜高山性針葉樹林(オオシラビソ林など)が成立する標高帯に,ササや灌木を主とする偽高山帯的景観が広がり,亜高山性針葉樹であるオオシラビソの分布が小林分でしか存在していない現象がみられる。本論文はその背景を解明するため,南八幡平笹森山北斜面のある範囲に密集して存在するオオシラビソの小林分を対象に,地形,樹種構成,樹齢構成,体積含水率など,詳細な調査を実施し,オオシラビソ林の立地環境を明らかにした。さらに種子の更新や実生の定着位置などの調査結果から考察を進め,①笹森山北斜面においては局地的に湿性な環境にオオシラビソ林が形成されていること,②オオシラビソ小林分の分布拡大は現在進行していないこと,③他地域からの移動により成立したものではないことなどから,当該地域にみられる偽高山帯的景観はオオシラビソ林の分布が湿性環境に偏在することによって形成された景観であると結論づけた優れた研究論文であると判断される。


■受賞者:庄子 元 会員
選考対象とする業績:「北上川沿岸の基盤整備農村における地域営農組織の存立形態−農地利用の再配分に注目して−」季刊地理学68巻第4号所収

業績の概要と評価:本論説は複数の集落からなる地域営農組織がどのように農地の利用・調整を行っているかを,岩手県南部,北上川・砂鉄川合流点付近の旧川崎村に成立している門崎(かんざき)ファームを例に検討したものである。本地域の作付けは水稲と飼料用米が中心で,大規模な基盤整備事業で整備された農地を集約し,門崎ファームが借り上げ,①オペレータ層,②自作完結農家層,③一部自作農家層の順で農地が再配分される。このような農地再配分により,オペレータ層の作業効率を高めるとともに,自作(完全,一部)を希望する農家の農業経営も維持されることが可能となっていることを詳細な調査により明らかにした。現場から得られた貴重なデータを的確に分析し,明解に図化することに成功しており,農業地理学に大きな示唆を与えられる研究と考えられる。

第9回受賞者

■受賞者:松本江利奈 会員
選考対象とする業績:「東京都世田谷区におけるコミュニティサイクルの利用特性」 季刊地理学67巻第2号 所収

業績の概要と評価: 選考対象論文は、自転車共有システムの一つであるコミュニティサイクル(CCS)のわが国大都市部における展開を、交通条件を含む地域の特性との関係から理解しようとしたものである。  本論文は、自宅および通勤・通学先から鉄道最寄り駅への往復交通手段として主に自転車が利用されている東京都世田谷区を対象に、公設民営方式で運営されているCCSについて、アンケート調査から利用者の利用形態、目的地、借出・返却行動と移動範囲を精密に復元した上で、利用開始前と利用開始後のCCSに対する評価の変化とを複合的に関連させながら考察し、世田谷区におけるCCSが果たしている役割と課題を実証的かつ多面的・統合的に描き出している。 本論文においては、成熟期にある日本の大都市地域において、都市環境と都市交通体系の実態やその目指すべき方向性、あり方を考えるうえで重要である自転車共有システムに着目し、単に実態に留まらず海外までを視野に入れた都市交通研究の吟味のなかにそれを位置づけつつ論じている。かつ、そこではGISによる地図化された情報提示が効果的に盛り込まれ、きわめて論点と成果の提示が明快である。それによって、高度な分析内容を理解しやすく提示しており、その表現内容や構成について高く評価できる。なお、本論文は宮澤 仁氏との共著論文であるが、松本江利奈会員がお茶の水女子大学に提出した卒業論文に基づくものであり、それを論説レベルまで昇華させたことも積極的に評価できる。以上の理由により、松本江利奈会員が受賞にふさわしいと判断した。

第8回受賞者

■受賞者: 庄子 元 会員
選考対象とする業績:「福島県西会津町における耕作放棄の抑制メカニズム」 季刊地理学66巻第4号所収

業績の概要と評価:本論文は,耕作放棄の拡大が顕著である西会津町において細密な現地調査を実施し,耕作地放棄の抑制要素とそのメカニズムの解明を目指したものである。まず,リージョナルなスケールによる分析では人口流失の実態を把握し,農業従事者の居住地との近接性や交通アクセスを踏まえて当該地域を捉えることにより,集落外に居住する他出子弟のかかわりが,耕作放棄を抑制していることを説明した。また、ミクロなスケールから農地利用の状況を分析し,植林による土地利用の転換も,その抑制の要素として指摘した。このように,異なる空間スケールで現象を考察している点でも,地理学的研究として評価できる。農業労働力の減少が,他出子弟の農作業従事によって軽減されていることを示すこの事実は,人口減少が耕作放棄に直結する訳ではなく,交通条件の整備によって緩和されている面もあることを示唆している。本研究の成果は,累次の往訪を通じて醸成した多様な関係者とのかかわりによるものであり,質の高いフィールド研究を達成できる能力を有した筆者の,今後の発展への期待を抱かせるものである。以上の理由により,庄子元会員が受賞にふさわしいと判断した。

第7回受賞者

■受賞者: 吉田 明弘 会員
選考対象とする業績:「宮城県多賀城跡の高精度植生復元からみた古代の森林伐採と地形形成への影響」季刊地理学64巻第4号所収

業績の概要と評価:選考対象の論文は、詳細な年代値に裏付けされた宮城県多賀城趾の花粉分析結果に基づいて、この地域の森林植生の変化を古代大和政権の進出に伴う森林伐採や農作物栽培との関係から論じたものである。さらに、花粉分析から植生変化を考察するだけでなく、仙台平野の考古遺跡分布・年代や浜堤列の地形発達史との関連性にも言及し、森林伐採による土壌侵食量の変化や沖積平野の埋積過程との関係も含めて、総合的にこの地域の環境史を復元した論文である。人間活動-植生-堆積物-地形間の相互関係を精査検討している点において本研究は自然と人間活動との関係性を総合的に捉える自然地理学的なアプローチの豊かな可能性を示しており、また関連する地質学や生態学にも貢献しうる重要な論文として評価しうる。なお、本論文は鈴木三男氏との共著論文であるが、吉田氏の過去の季刊地理学での公表論文ならびに本学会機関誌以外での顕著な業績をも評価し、吉田明弘会員が受賞にふさわしいと判断した。

第6回受賞者

■受賞者: 大和田 美香 会員
選考対象とする業績:「南部スーダン・ジュバにおける労働市場と職業訓練」季刊地理学64巻第2号所収

業績の概要と評価:本論文は、南部スーダン(南スーダン)の首都ジュバにおける労働市場の現況を具体的に把握し、そこで生じている歪み、すなわち人材需要と供給の間のミスマッチの原因を分析しようとしたものである。このミスマッチの原因は、主に必要とされる技術を有する労働力を南スーダン人のなかに十分見出すことができないことであり、その解消のためには現地における人材育成が重要となる。そこで、本論文ではさらに現地の職業訓練プロジェクトの実態とその成果にも分析の目を向け、紛争からの復興、新たな方向性の一端を指摘した。本論文は、まず入国・調査が困難な紛争後の南部スーダンにおいて労働市場の実証的な研究を行ったこと自体貴重であり、海外フィールド研究の活性化に寄与する成果と評価されよう。使用されたデータは、著者自身による詳細な聞き取りに拠ったものであり、二次資料による安易な一般化は避けられている。結論は調査結果の要約が主であり、開発理論やミスマッチ理論などと結び付けて理論的に考察する視点が希薄である点に課題が残るが、研究ノートでもあり、丁寧な実態把握と論述は今後の展開への期待を抱かせる。以上の理由により、大和田美香会員が受賞にふさわしいと判断した。

第5回受賞者

■受賞者: 田中 健作 会員
選考対象とする業績:「広島県北広島町のデマンド型交通における交通サービスの供給方式と運営関係者の組織化過程―ホープタクシー大朝を中心に―」季刊地理学63巻2号所収

業績の概要と評価:中山間地域における公共交通は,道路運送法改正の2000年代以降,民間バス会社の定期路線が縮小される中で,自治体側も財政逼迫で最低限のサービス確保にも工夫を強いられる状況にある。本研究では、そうした問題を抱える地域から,地域の多様な主体の協力によってデマンド型交通サービスの運営に成功している事例を取り上げて,運営にかかわる地域主体の組織化過程を整理し,それに基づいて成立要因を考察している。詳細な聞き取り調査を中心に、関係するアクター間の関係とキーパーソンの役割を浮き彫りにし、中山間地域における公共交通を維持する地域的な要因を具体的に解明している点は特に優れた点と言える。全体として着実な行論と適切な図式表現,説得的な考察のほか,交通問題にとどまらない住民協働のガバナンスのあり方や公共施策の実現過程の分析にも資する優れた論文として評価される。以上の理由により、田中健作会員が受賞にふさわしいと判断した。

第4回受賞者

■受賞者:小田 隆史 会員
選考対象とする業績:「サンフランシスコ市における移民街区の保全と再建の「ガバナンス」―制度と主体の変化に着目して」季刊地理学62巻1号所収

業績の概要と評価:本研究は,市民や民間企業が行政・議会と連携して都市政策決定に参画するための制度をいかに構築したのかについて,入念な現地調査に基づき明らかにしたものである。米国・サンフランシスコ日本町における「コミュニティ」存続のための運動を事例としてとりあげ,人々が都市計画の従来の手続きに対して歴史文化遺産に関わる特殊規制を加えた経緯を論じ,また都市再開発における関係主体の多様化を指摘することによって,利潤追求の市場原理主義的な再開発に対する「コミュニティ」住民の異議申し立てという図式的理解の相対化を求める内容となっている。今後の都市政策のあり方を展望するのに当たって関心の集まるテーマを具体的に論じており,民営化やボランティア・セクターの拡大を含め,都市社会地理学において一層の発展が期待される領域の端緒を開いたと評価される。以上の理由により,小田隆史会員が受賞にふさわしいと判断した。

第3回受賞者

■受賞者:佐々木 達 会員
選考対象とする業績:「宮城県亘理町における農業特性と複合経営の再編」季刊地理学61巻1号所収

業績の概要と評価:本研究は,稲作とイチゴの複合経営を特徴とする宮城県亘理町において,米価下落のなか,兼業化を進めて米の単一経営を指向する地区と,経営の複合化や規模拡大を指向する地区への再編が進んでいることを指摘した。そして,後者の類型に含まれる一集落での再編実態を検討するために,複合経営世帯,米単一経営世帯,農地貸付・委託世帯の経営内容を調査し,農業機械の更新や世代交代の際に農業経営を継承しなかった世帯が農地を複合経営世帯に貸し付け,農業専従指向のこれら農家の経営規模拡大を支えていることを明らかにした。とくに,稲作経営規模の拡大が労働力配分の点でイチゴ栽培と競合すること,農地貸借が圃場を分散させ作業効率を低下させていることなど,詳細な調査をもって初めて把握できる経営問題を指摘している点は,高く評価することができる。本研究は,日本農業の変化の方向性を考えるうえで不可欠の情報を提供するものであり,今後のさらなる発展が期待される。


■受賞者:松尾 忠直 会員
選考対象とする業績:「北海道における生シイタケ栽培への企業参入と生産構造の変容」季刊地理学61巻2号所収

業績の概要と評価:本研究は,1980年代後半以降,工場的なシイタケ栽培の拡大した北海道を例として,これを推進した企業系列の立地戦略,種菌等の企業間取引,生産物の流通を検討し,栽培農家を基盤とした従来の生産構造に生じた変化を明らかにしたものである。行政による補助金の交付,安価な労働力の存在,夏季の冷涼な気候や技術開発などが,北海道への企業進出を促し,企業による大量生産が道内における産地の集中に寄与したことが指摘されている。また,リスク回避のため国内分散的な立地戦略をとりつつ取引・流通を系列間で行う企業と,取引関係にある栽培農家のある本州以南を避けて北海道に進出し,系列企業の自主流通にゆだねる企業についての記述は,具体的で興味深い。このように,本研究は,農業の新たな担い手として注目されている企業の活動とそれによる変化を,研究が蓄積されていないキノコ類の栽培をとりあげて解明しようとした,意欲的な試みと評価できる。

第2回受賞者

■受賞者:遠藤 尚 会員
選考対象とする業績:「西ジャワ農村における農家世帯の干害時の対応--ボゴール県スカジャディ村の事例--」季刊地理学60巻1号所収

業績の概要と評価: 遠藤会員は,これまでの研究において,西ジャワ農村における世帯生計の実態と急速な経済成長以降のその変化を明らかにしてきた。本稿は,一連の西ジャワ農村生計研究の一部として,頻度の高い災害に対する農家の生計戦略と対応能力に注目し,西ジャワ農村における干害時の対応から農家世帯の生計と脆弱性について考察したものである。分析の結果,農家は,それぞれの経営農地の水利条件や農業に投入可能な労働力などに応じて,世帯生計全体として,より多くの利 益獲得が可能な作物選択を行っていることが明らかとなった。そして,次期作資金減少に対しては,各世帯の生計構成/戦略に最も適した対処を行っていることがわかった。本稿は,農業経済を主とした従来のジャワ農業,農村に関する研究において,ほとんど注目されることがなかった,農家の災害に対する対応能力を明らかにした点で画期的な研究であるといえる。


■受賞者:山本 健太 会員
選考対象とする業績:「ソウルにおけるアニメーション産業の集積と特質--国際分業および労働市場に着目して--」季刊地理学60巻4号所収

業績の概要と評価:本研究は,山本会員によるコンテンツ産業の大都市集積の構造解明を目的とする一連の研究にあって,日本アニメーション産業の主要な分業先地である韓国ソウルにおける当該産業の集積の実態と産業の特質を,国際分業下に形成される企業間取引関係と労働市場の特徴から明らかにしたものである。
 同産業は,日本と欧米の制作企業からの受注生産が売上額の大半を占め,主要発注国によって,取引,生産の様式,さらにはソウル市内での立地選好が異なる。しかし主たる取引先を日本,欧米とする企業のいずれも,同業他社との近接性, 国際空港の利用可能性を求めてソウルに立地している。この企業集積は,労働者間のつながりによって形成される柔軟かつ専門的な労働力を提供する労働市場によって支えられている。
 本研究は,行為主体のローカルな関係性が注目されてきた,コンテンツ産業の大都市への集積の従来の議論に対して,グローバルに展開する関係性もまた,当該産業の集積を形成するために重要な役割を果たすことを実証したという点で,産業集積論の発展に貢献するものである。


■受賞者: 若狭(阿部) 幸 会員 
選考対象とする業績:「宇宙線核種濃度から推察される木曽川上流寝覚ノ床における下刻速度」(森口有里・松崎浩之・松倉公憲各氏との共著)季刊地理学第60巻2号所収

業績の概要と評価: 本研究は,木曽川河床との比高約20mの間に露出している花崗岩表面の宇宙線生成核種10Beの濃度から地表露出年代を測定するとともに,シュミットハンマーおよびエコーチップ法による岩盤表面の強度を測定し,これらによって, 約1.2万年前以降の下刻の経過と,岩盤表面の風化との関係を明らかにした。
 適切な調査対象地を選ぶことにより,河川の下刻速度・過程を詳細にとらえる手法を明らかにした研究であり、とくに約6,000年前以降の下刻速度の加速という地形学的にも興味深い結果も提示している。また同会員を第一著者とする関連論文が「地形」,「Earth Surface Processes and Landforms」など国内外の学術雑誌にすでに発表されるなど、今後のさらなる研究発展が期待されるものである。

第1回受賞者

髙木 亨君,山本俊一郎君(雑誌掲載順)

    • 東日本大震災報告集
    • 東日本大震災と地理学
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