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東日本沿岸地域の地域概要
東北地理学会東日本大震災報告集
1.立地
2.諸指標 Table1は,主な津波被災地域を含む沿岸の5県について,人口と産業活動に関する指標を示したものである。これら5県が日本全体に占めるシェアは,人口で11.6%,製造業出荷額で12.0%,農業産出額で17.1%,漁獲量の20.1%,海面養殖生産量の17.8%である。人口比と比べてみると,これらの地域は農業と漁業の生産の多さに特色があるといえる。また,茨城県と千葉県には大規模な臨海工業地帯があり,製造業出荷額も多い。 3.地域区分 Fig.1に示したように,この地域は,自然的,歴史的,経済的特徴から,おおむね三陸海岸,仙台湾岸,福島県浜通り,東関東沿岸に区分される。以下それぞれの特徴を述べる。 1)三陸海岸 津波被害の中心となった本州北東部沿岸地域は,青森県から千葉県までの沿岸と重なる。このうち,青森,岩手,宮城の3県の沿岸地域が,歴史的地域名称に因んで「三陸地方」と呼ばれる。その海岸線の多くは,出入りの激しい形状をなす(スペイン北部の同様の海岸に因んで「リアス式海岸」と呼んでいる)が,平地には乏しい。日本の交通幹線からははずれて交通は不便であるが,一方では港の立地には適しており,沖合に世界有数の好漁場を持つこともあって,沖合・遠洋漁船漁業の出漁・水揚げ・加工基地としての漁港都市群(八戸,久慈,宮古,山田,大船渡,気仙沼,志津川,女川,牡鹿,石巻など)を発達させてきた。また,沿岸では海面養殖業が盛んで,日本の代表的な水産業地域を形成してきた。 他方,その海岸の形状は津波の波高が大きくなりやすいという特徴をもち,明治以降,二度にわたって大津波の災禍を経験してきた。そのため,津波への対策も積み重ねられてきた。しかし今回の津波の高さは想定をはるかに超えるものであったため,沿岸の漁港や漁業集落は,最も甚大な人的・物的被害を受けた。 2)仙台湾岸 石巻以南の宮城県沿岸は,砂浜海岸が連なる。沿岸には低標高の海岸平野が広がり,今回の大津波はこれらの海岸平野の3~6kmの内陸にまで到達し,多くの集落,農地,産業団地を被災させた。 この地域には,北東日本の流通経済の中心都市である仙台市が立地するが,仙台市郊外の低地帯に集まる工場や流通企業が多く被災し,東北地方の流通経済に大きなダメージを与えている。 仙台湾岸の中央部に多島の内湾「松島」がある。松島湾は日本を代表する名勝の地として,またカキの養殖でも知られる。松島湾の湾奥には古くからの遠洋漁船の水揚げ基地であり,また仙台湾の物流基地である塩釜港が立地する。外海から島々によって隔てられた松島湾は,津波被害を軽減させる役割を果たしたが,それでも浸水被害は避けられず,名勝松島海岸は泥と砂に覆われた。 3)福島県浜通り その南の福島県の沿岸地域は「浜通り」と呼ばれ,北から相馬,双葉,磐城の3地方に分かれる。相馬と磐城にも沖合漁業の基地があるほか,相馬のラグーン「松川浦」はノリの養殖が盛んである。また磐城地方は,かつては首都圏への石炭供給地として,石炭衰退後は温泉観光や首都圏外縁の臨海工業地帯として,地域経済を維持してきた。 大津波によって深刻な事態となっている福島第一原発は,相馬と磐城の間の「双葉地方」に立地する。同地域の海岸は断崖をなす部分が多いため,沿岸立地の産業は発達してこなかった。そのことが,この地に適地を求めた東京電力の原発に依存する経済構造を生成させたといえる。双葉地方はその全域が第一原発30km圏内に含まれるため,いま地域崩壊の危機に直面している。 4)東関東沿岸 ここは,中小漁港が立地する茨城県北部,砂浜の直線的な海岸線が続く茨城県南部,関東地方最大の銚子漁港を挟んで,千葉県の「九十九里」と呼ばれる砂浜地域に分けられる。茨城県北部沿岸には中小漁港のほか,世界的大企業「日立」の創業地と製造拠点がおかれている。茨城県南部沿岸には,1960年代から掘り込み式港湾「鹿島港」と大規模な工業地帯や発電所が建設された。今回の震災では,千葉県「九十九里」海岸にも大津波が及び,沿岸集落に流失や浸水の被害が発生した。 これらの地域では,もともと砂浜だったところや海面埋め立てで造成された場所が多く,そうした場所では液状化現象の発生が報告され,多くの工場や発電所が操業停止して,地域経済のみならず,日本経済にも大きな被害を及ぼしている。 | |||
<データ出所>
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更新日:2011.4.10
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